散文世界

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【期間限定イベント】仮面城で何の夢を見るか【終了】

「残り三時間だね」
ホワイトワイン…ではなく、ホットブドウジュースを飲む男は、反面の下で微笑んだ。絢爛豪華な仮面の下で瞳を伏せた女の目の色は見えない。老人はどこかで遊ぶ、眠る、休む客人を思って口元をほころばせる。幼女はマグカップを置くと、椅子から飛び降りる。

「楽しかったかなぁ」

寡黙な使用人達からの返答はない。しかし、青年は気にしない。彼女は自分の寝台へと近付いていく。
一時たりとも手を抜かない使用人達のおかげでそこは何時だってふわふわだ。絢爛豪華なドレスを脱ぎ捨て、彼の服はパジャマにと着替えられていく。瞬きの合間に行われる変化にも使用人達は一切表情を変えることはない。

 

「お前達も眠らずによく頑張ってくれたね」

 

その声に、その労いに使用人達は静かに頭を下げて去って行く。まだ残っているだろう客人達の世話を彼等は、彼女たちは手を抜くことなく行うために。

そうして、最後に残されたそれは自身の顔を隠すマスクを天蓋の下、寝台の上で外した。

 

「現実はかくも苦しく。悲しく、苦々しい。それでも生きていかねばならない彼等に、私はすこしでも貢献できたのだろうか」

 

のっぺりとした顔には目も唇も鼻もない。
のっぺらぼう、無顔、NoName、無貌、なんでもいい。何故なら彼は、彼女は何でもないからだ。

「さぁ。冬が来る。君達に、愛しい君達に少しでも籠があることを、私は誰よりも願っているよ」

 

そう、誰にも届かない言葉と共に、主人は寝台へと横たわる。主人は眠るのだ。
又来たるべき日のために、客人をもてなすためだけに、眠りにつく、微睡みを楽しむ為に
【了】

 

イベントを楽しんでくださり、ありがとうございました。